バイクメンテナンス
変速トラブルを抱えていたロードバイクに起こっていた2つの駆動系トラブル
変速ができなくなったと持ち込まれるシフトトラブルで、割と上位を占めるロードバイクのインナーケーブル折損。インナーの表面がコーティングされていないステンレスワイヤーで発生するケースが多いですが、今回切れてしまったインナーはポリマーのコーティングワイヤー。折損には強いはずのポリマー被膜も、長く使い続けると切れるリスクが高まりますね。
今回のトラブル案件は2つあって、もう1つはケーブル折損よりも費用が嵩んでしまうこともあるドライブ系のトラブル。こちらのほうは発生頻度は少ないものの、気付いた時には部品を交換せざるを得ないケースもあり、そうなると費用的にもけっこうな負担となります。
しかも旧式コンポが装着されているバイクの場合はやっかいな問題を抱えている場合もあって、今回がまさにそうでした。こちらも定期的なメンテナンスで防げる内容ですから、1年に一回とか定期点検が大事だなと、あらためてそう思った次第です。
それでは、これらがどのようなトラブルだったのか、さっそく見ていきましょう。
シフトインナーが切れた場合に絶対やってはいけないレバー操作
今回のお持込みバイクで起こっていたトラブルの1つ目は、シフトのインナーが切れてブラケットユニットの中に引っ掛かっていたトラブル。ユニット内に切れたタイコが残っている場合、旧式モデルによっては取り出すのが難しいケースもあるけれども、今回の105レバーは裏側のカバーが外せるのでたぶん大丈夫だろうと、まずはこちらを先行させて作業を開始。
と、その前に、今回のようにユニットの中で切れたワイヤーが絡まってやっかいな状況にならないよう、ワイヤーが切れてしまった場合、その直後の対応がものすごく重要になるのでそれを始めに解説しておきます。
走行中にワイヤーが切れてレバーの当たりが無くなった時は、シフト操作はそこでストップ。レバーが空打ち状態になったらインナーケーブルの折損を自覚し、その後何度もレバーを動かすのはやめましょう。
折損するのは、巻取りレバーで大きいギア側に変速している最中にケーブルの張りが強くなった時に発生します。この状況で、折損後にさらに内側に巻取り操作するレバーの動作は、折損したケーブルの除去作業が困難になるばかりで、シフト自体が改善することはありません。
特に、レバー操作で巻取りレバーと解除レバーを交互に何度も動作させていると、レバーユニットが動くたびに切れたケーブルの先端がばらけます。今回は除去できましたが動かせば動かすほど先端がどんどんばらけてくるのです。
で、レバーがまったく動かなくなったら、ユニット内で引っ掛かっているその場所によっては切れたケーブルの先端が隠れて見えないと、除去できなくなる可能性も生じます。その場合は必然的にレバー交換です。なので、切れた直後は、レバーを何度も動作するのは絶対に×。
走行中にインナーケーブルの折損を初めて経験される方は、このことをあらかじめ知って頂いて、出来るだけ折損ケーブルを取り出しやすくするために覚えておいてほしいと思います。ケーブルの除去作業が困難になればなるほど時間が掛かり作業料金にも反映されます。ケーブルを交換する時に費用の負担が大きくならないためにも折損後の正しい対応が大事ですね。
ユニット内に絡まったインナーケーブルの除去作業
さて、それでは、今回はどのような状態だったのか、トラブルから復旧したその作業状況をみていきたいと思います。
まず最初に、レバーを操作してトップギアの位置まで戻るなら、ケーブルのタイコが見えるはずですから、この場合は切れたケーブルを取り除くのはそれほど難しくありません。もちろん、記事に書くのはそうではなかったためで、解除レバーを初期位置まで戻そうとしても2段階しか動かない状態。
逆の動作はどうかと巻き取り側のレバーを動かすと、こちらも3段階目で止まってしまう。これは完全にユニット内で折損したケーブルの先端がばらけて中で引っ掛かっていると判断し、作業はハンドルからレバーを外して行います。
この場合、必然的にブレーキのほうも外すことになるので、インナーキャップを切断した後の状態によってはブレーキのケーブルも交換せざるを得ないケースも生じるかもしれません。あらかじめ留意しておいたほうがよいですね。
折損したインナーケーブルが絡んでここまでレバーが動かない状態だと、ブラケットカバーを装着している状態では折損したケーブルを除去することができないためカバーも外して作業します。
脱着したレバーを裏側から確認すると、折損したインナーの先っちょが見えました。ただ、ユニットを覆っている裏側の樹脂製カバー(シマノではカバーと言ってますが紛らわしいから以後これは蓋と言います)が装着されているので、これではまだ見えづらい。
樹脂の蓋を外します。以前もブラケット裏のビスが緩むと蓋の脱落トラブルにつながるという記事を書いたことがありましたが、今回もけっこう緩んでいた。固着してカバーが外せないのは最悪だが、そういうこともなくカバーは簡単に外せたのでまずはひと安心。
蓋を外したあとは折損状態がよくわかります。切れた先端がこれだけばらけていたら、ケーブルが収まる溝には嵌らず、レバーが初期位置には戻らなくなります。ばらけた先端があちこちに引っ掛かって動かなくなってしまうんですね。
しかも、なぜかユニット内に大量の潤滑剤が。こんなに汚れていると、別のトラブルを引き起こすかもしれません。ユニット内で汚れた砂とか噛んだらレバーの動きに支障が出てしまうかも。
無事に折損したタイコが除去できました。解除レバーを初期位置まで戻し、これでようやくインナーを交換することができます。
さらに時間が掛かったシフトのケーブル交換
ポリマーコーティングのインナーワイヤーは、通常のステンレスワイヤーよりも折損には強いと聞いているけれども、切れる時は切れるんですね。素材自体は通常のステンレスと同じかどうかはわかりませんが、いくら外側をコーティングして固めていても、切れてしまうとこういうふうにばらけるのは通常のステンレスワイヤーと同じようです。
ところで、今回のシフトケーブル交換は、レバーユニットに折損ワイヤーが絡まっていたことで通常よりも作業時間が長くなっていますが、さらに時間を要する作業が続き、ユニットのワイヤーを除去したあとも簡単には終わらなかった。
次に、フレーム内の切れたケーブルを取り除き、新しいシフトケーブルへの交換作業となります。
ケーブル内装フレームは、その仕様によって作業の仕方も変わるので、お客様に見積もりを提示する際の作業料金も様々な仕様を想定して作業料金表を用意しています。それでも、各メーカーごとに違う仕様すべてを網羅できているわけではないので、時には作業が完了したあと掛かった時間からだいぶ安いお見積りになってしまったなという時もあったりします。
これまでも何度かそういうふうに感じたことがあって、今回も想定していた以上の時間を費やすことになってしまった。
こちらのバイクは、中堅以上のモデルでは一般的になっている内装仕様のケーブルルーティング。内装は、かっこよく言えばインターナル。インターナル形式はまず外観を見て接続方式を判断しますが、このモデルは想定していたのとはちょっと違った。
ダウンチューブのインナーケーブル挿入口は、一見すると、まわりの形からアウター受けを押し込むキャップ式のように見えたが(写真はバイクが倒立状態)、間近で見るとそうではなく、アウターストッパーがフレームに直接直付けされている形式。
ハンガーシェルのケーブルガイドにケーブルライナーもどきのビニールチューブが装着されているが、ダウンチューブがこのようなアウター受けの形式だと、ケーブルガイドにチューブが装着されていると、とても作業がしづらい。
ケーブル挿入口が取り外しできるキャップ式だと、ここからケーブルライナーを入れられるので作業がしやすいのだけれども、内蔵の直付けアウター受けではインナーを通す分くらいしか穴が開いていないのでライナーが通らず、シフトが内装仕様でケーブルライナーが使えないバイクはけっこう手間が掛かります。
そして、このようにハンガーシェルにチューブが装着されている状態でチェーンステイも内装の場合は、チェーンステイにインナーケーブルを通す時に用意するライナーが2本必要だからさらに時間が掛かってしまう。
ともあれ、当初の予定よりも作業時間が長引いたものの、ようやく難解だったシフトケーブルの交換を終えて、次の作業に移ることができました。
ちょっと長くなったので、もう一つの駆動系トラブルはまた次回に。請うご期待!